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『当球レコーディング大会』

                                  

                           滝 昇龍

前編

 人は、時によくわからないことで動く。

 放課後、私は教室にいたリク君の元に訪れ、次のボイスドラマについて話し合っていた。

「うーん、なかなかいい案が思いつかないわ。まさかのスランプってやつね」

「なら来栖にも何か案がないか聞いてみたらどうだ? 多分中庭で絵を描いてると思うぞ」

「なるほど、そうね。アラト君にも聞いてみようかしら」

 その時、私はふと気になった。

「……アラト君って、一人の時何してるの?」

「だから来栖は」

 私はリク君の話を遮り、勢いよく立ち上がった。

「気になりだしたら他のことに集中できないわ! 息抜きだってたまにには必要なことよ!」

 バッとリク君を見る。

 リク君は、私がこれから言うであろうことを予想してか、目を細めた。

「というわけで、リク君、中庭を見下ろせる場所に行くわよ!」

「いや、水留。さっきも言ったが多分来栖は絵を――」

「まぁまぁそういわずに、ほらしゅっぱ~つ!」

 リク君の背中を押し、廊下を駆ける。それから階段を上がって、私たちは中庭を見下ろせる校舎三階の窓前で止まり、窓越しに顔をのぞかせた。

「アラト君いた!」

「ほら、やっぱり絵を描いてるだろ?」

 リク君の言う通り、中庭でスケッチブックに絵を描いているアラト君が目に映る。

 しばらく観察していると、アラト君はスッと立ち上がり、左手を顎に当てて、右手を宙にあげ、人差し指を立ててくるくる回し始めた。

「お、何してるのかな? 宇宙人と交信とか!」

「いや、絵の構成を考えてるんだろう」

 ちょっとふざけて言ってみたんだけど、リク君は普通に返してきた。

 あまりのノリの悪さに、不満がため息として口からもれる。

 すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おや、そこにいるのはナキリさん……と、五星君!」

「あら、セイヤ君じゃない」

「月宮?」

 リク君はセイヤ君の方へと向き直り、芸術祭のことについて話し出した。

「芸術祭で来栖や水留達と一緒にボイスドラマを作ったそうだな。すごくよかったと聞いてる」

「おお。それはよかった! 五星君にほめられるとは感激だよ! いやあれは本当に素晴らしかった。僕とナキリさんとアラト君の努力の――」

 セイヤ君は、延々と早口でしゃべり続けてながら、時にはくねくねと体をよじらせた。さらにはマギカルトを使い、スポットライトのような光を差し込ませ、昇天して行くのではないかと思うほど、満足感に満ちた顔を見せている。

 そんなにリク君にほめられたことが感激なのか、いつもより二割増しぐらいのテンションになっているように見える。

「あれ? 芸術祭の結果ってリク君に言ったっけ?」

 セイヤ君を無視し、そう聞くとリク君は、

「朝に来栖から聞いた」

 と答えてくれた。

 ガラガラ――。

 ん? 何の音……ってうわっ!

「よかっ――むぐっ!」

 突然窓を開けて、おそらくよかったぁぁぁと叫ぼうとしたセイヤ君を押さえつけた。

 そーっと中庭に目を向ける。

 危なかった。アラト君は気付いてないみたい。

「全く、ばれちゃうところだったでしょ!」

「え、え? 何が?」

 事の重大さが分かっていないセイヤ君に、さっきまでリク君と何をしていたのかを説明した。

「わかった? じゃあセイヤ君は、あそこにいるアラト君が今何をしてると思う?」

 期待のまなざしをセイヤ君に向け、その答えを待つ。

 中庭にいるアラト君を見たセイヤ君は、ふむぅと少し考えてから、口を開く。

「分からないな、本人に聞けばいいじゃないか。何なら僕が聞いてこようか? 今はすごく気分がいい。待っていてくれすぐに……って、うお!」

 私はすぐに、アラト君のもとに行こうとしたセイヤ君の腕をつかんで止める。

「聞きに行ったらダメなのよ! 全然わかってないじゃない! そこはこう……何か面白い回答とか」

 リク君もセイヤ君も首を傾げ、私のことを見る。

 なに? この私が悪いみたいな感じ!

「二人ともノリ悪い。いい? ノリよ。ノ・リ! ノリが悪い人って損なのよ。別に無理してのる必要はないけれど、調子を合わせられるようにはならないと、人間関係が悪化するって、この間テレビで言ってたわ!」

「「なるほど」」

 リク君は真剣な表情で、セイヤ君は納得したように、同じ言葉を言った。

「そうだ。今からアラト君が何を言っているかアテレコしない? アラト君の動きだけを見て、面白いアテレコをするの!」

「面白い必要はあるのか?」

 リク君が、そう返してきたので、私ははっきりと言ってやる。

「当たり前でしょ! 何事も経験よ。普段しないことをやってみるのも面白いと私は思う!」

「なるほど! これも演技の勉強ということだね。ちゃんと理解した!」

「……そうなのか?」

 何はともあれ、何とかリク君を丸め込み、やる気に満ちたセイヤ君と共に、アラト君のアテレコ大会が始まった。

 アラト君は、腕を組みその場をうろうろとして、何かを思いついた様子で、右拳を左手のひらにポンッと打ち下ろした。

 それにアテレコを入れたのは、セイヤ君だった。

「『う~ん。なんだったかな~。そうだ思い出した! 僕の名前は月宮セイヤだ!』」

「いや、じゃあ、あんたは誰なのよ!」

 声色まで変えてアテレコをしたセイヤ君に、思わずツッコミを入れてしまった。でもなかなか良かったわよと伝えると、得意げにそうだろうとセイヤ君は胸を張った。

 リク君は、そんな感じかとつぶやき、アラト君を見る。

 アラト君は、こめかみをトントンと人差し指で数回叩いた後、ゆっくり空を見上げた。

 それを見て、今度はリク君がアテレコをする。

「『そうだな……今日は……うどんにするか』」

「ふっ、うん、したらいいじゃない?」

 アラト君の動きにしっかり合わせて、流れるように頭に入ってきたそのアテレコに、思わず笑ってしまう。

 セイヤ君は、なんというか勢い任せのところがあり、リク君はすごく真剣に面白いと思うことを考えているようだ。

 なんだか、だんだん楽しくなってきた。

「水留はしないのか?」

「うん、私は聞く専門よ。どっちがよかったか審査してあげるわ!」

「おお、五星君と対決ってことだね。さらにやる気が出てきたぁ!」

 そうこうしていると、アラト君が何かに気づいてあたふたし始めた。

 別にこっちに気付いているわけではないようで、別の方向を見て焦っている。

 それを見たセイヤ君がアテレコをした。

「『いやぁぁぁ! 無理なんですぅ。ピーマンは食べられないんですぅ』」

 ぶっと噴き出してしまった私に、リク君が追い打ちをかける。

「『静かにするんだ。野生の来栖アラトが俺たちの気配に気付いたぞ。これは相当警戒している』」

「ふひひ」

 まさかの目に見えないガイドさんのアテレコをするという変化球。予想外の軌道を描いたその球は、私のツボにストライクだった。

 ふぅと深呼吸し、アラト君に目を向ける。

 何をそんなに慌てているのかと思ったら、どこからともなく走ってきた子に、アラト君は飛びつかれた。

 あれは……。

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