◇ 一章 冬の幼稚園にて
窓の外で雪がちらちらと降っている。
冬休み初日、十二月も終盤なのだから当たり前だとはいえ、ゆっくりと眺めたのは久しぶりかもしれない。
カトラ幼稚園の職員室でパイプ椅子に座っていた来栖アラトは、そう思いながら白湯を飲んでいた。
「外、寒そうだね」
ぽつりとつぶやくと、隣に座っていた水留ナキリが園児名簿から顔を上げた。
「そうね。たしか、『今日は最高でも三度あればいい方です!』て、ニュースで言っていたわ」
「そうなんだ。先生たち、こんな寒い中頑張っているんだね。僕、役に立てるかな……」
そう言ってアラトは職員室を見渡す。幼稚園の先生たち一人ひとりが、来るお遊戯会の準備で忙しなく動いていた。
カトラ幼稚園。アラトたちが通うエルト芸術学園の系列校で、マギカルトを使える子どもたちが通学している幼稚園である。
それぞれの個性に合った授業を展開し、マギカルトの使い方を学ばせるほか、子どもたちのために色んなイベントを開催している。その中でも一番の目玉は、年末に行われるお遊戯会だった。お遊戯会は子どもたちの成長だけでなく、次世代マギカティストの卵たちを見ることのできる機会でもあった。そのためマギカティストはもちろんのこと、有名な劇団員や俳優などが見学に来ることもあり、先生たちは長い準備を経て本番に挑む。
しかしこのとき問題が発生した。お遊戯会一週間前に、ひまわり組の担任がインフルエンザに罹ったのだ。
このタイミングで担任が休みになるのは致命的だった。困った先生たちはエルト芸術学園に相談し、学園は手伝いとして生徒を派遣することを決めた。そこで白羽の矢が立ったのが、アラトとナキリだった。
作品展や芸術祭、他学校生徒との対決など意欲的に行動する二人を、学園は高く評価していた。今回のことも二人の成長に繋がるとして、学園は彼らに決めた。このことを打診されたアラトたちは意図をくみ取り、二つ返事で引き受けたのだった。
この話を聞いたとき、アラトは誰かの役に立てるならと意気込んでいた。しかし今は先生たちの雰囲気に圧倒され、身を強ばらせている。しばらくすると、女性の先生がエプロンを持って二人の前に現れた。
「お待たせしてすみません。水留さん、来栖さん、遊戯室へ案内します」
「はい! さ、行きましょ! アラトくん!」
「うぅ。ちょっと緊張するなぁ……」
一呼吸置き、先生から渡されたエプロンを身につける。アラトは青、ナキリはピンクのエプロンで、真ん中ポケットから
ヒマワリとうさぎのワッペンが飛び出していた。