◇ 五章 勇気を振り絞って
お遊戯会当日。教室に集まったアラトとナキリは、子どもたちと共に衣装や演技指導といった最終確認をしていた。
この一週間、毎日練習に顔を出し、子どもたちと交流を深めていた。今ではクラス全員がアラトたちに笑顔を向け、劇を楽しみにしている。
「みんな緊張がなくて元気いっぱいね」
「そうだね。一時はどうなるかと思ったけど、あの日があってから一丸になれた気がするよ」
「ふふっ。アラトくんのおかげね」
「えっ! いや、僕は何も……。水留さんの方がすごいよ。みんなの考えを変えたんだから」
「数なんて関係ないわ。それに、あの子はアラトくんだから助けることができたと思うの」
ナキリがソウタに目を向ける。それに合わせて見ると、ソウタは兵隊役の子どもたち同士で楽しげに演技の確認をしていた。
アラトは嬉しくなって微笑む。このままいけば、いつか彼もマギカルトが使えるようになるはずだ。
「さ、アラトくん! 劇の成功を祈ってみんなで円陣でも組む?」
ナキリが笑顔で提案する。瞬間、勢いよくドアが開かれた。
「大変です!」
先生が、青ざめた顔でアラトたちのもとへと駆け込んできた。
「ど、どうしたんですか?」
「ライオン役の子が来れなくなってしまいました!」
「えぇ!?」
アラトもナキリも、驚きのあまり声が出る。先生は一つ深呼吸をすると、すぐに理由を話し始めた。
「どうやら熱を出してしまって……。代役を立てるしかありません」
「でも、そんなことできるんですか?」
「子どもには演技だけをしてもらって、台詞は私がマイクを使って喋る。それでなんとかなるかと……」
「あ、あの!」
声をかけられたアラトたちは振り返る。そこにいたのはソウタだった。
「ぼく、します!」
「ソウタくん!?」
「ぼく、今日までその子と一緒にたくさん練習したんだ。だからライオンの演技もできるよ!」
ソウタは服を強く掴んでいる。それを見て、アラトは閉口した。
ソウタは怖いはずなのだ。台詞を覚えているとしても、練習なしで舞台に立つことになる。演技も含め間違えてしまえば、それだけで観衆は物語に没頭できなくなってしまう。ナキリと共にボイスドラマのレコーディングを見てきたアラトには、そのことが痛いほど分かっていた。
それでもソウタは勇気を振り絞ってライオン役の代役に名乗り出た。彼の気持ちを踏みにじるわけにはいかない。
アラトはしゃがむと、ソウタの目を見据えた。
「本当に、任せていいの?」
ソウタは力強く頷いた。
「分かった。先生!」
「分かりました。少し時間もありますので、できるところまで練習します。みんな、着替えて!」
先生はそう言って手を叩いた。